大阪府出身の23歳。自閉スペクトラム症とともに育つ。母親からの紹介で「ル・クロ」の福祉事業を知り、体験実習を経て入所。入所5年経った今では、持ち前の器用さで幅広い厨房作業をこなし、周囲から頼りにされている。小さい頃からお笑い好きだったという陽気な一面も。週末はダンススクールに通い汗を流す。
高校生だった顕生さんに「ル・クロ」の福祉事業のことを教えてくれたのは、お店に食事に訪れたことのある母親でした。当時、とくに料理に興味があったわけではなかった顕生さんですが、なんとなく「料理を仕事にするのもいいかな……」と感じたそう。その後、体験実習を経たのち、今度は親子でお客としてレストランを再訪。自分なりの観察の結果、「ここで働いてみよう」と決心し、2019年に入所しました。
「料理の経験もないまま入ったので、最初はけっこう大変でした。最初はお菓子づくりとかお皿拭きとかの簡単な作業から始めて……」。
「顕生さんは器用ですよね」という支援員の言葉に、「自分ではそんなこと思ってないですけど」とはにかむ顕生さんですが、これまでに手がけてきた仕事の幅は、なかなかのもの。
コロナ禍のみ開業していた非接触型の「テントカフェ」や、東心斎橋にあったカジュアルフレンチ「ル・クロ・ド・クロ」、貝塚にオープンしたグランピング施設「いぶきヴィレッジ」などでも仕事を経験しています。
「いぶきヴィレッジでは、お重の盛り合わせもやりました。もちろん初めてなので、教えてもらいながらでしたけど、あれはすごくむずかしかったですね」。
最近は2階のレストラン厨房で、料理の仕込みをしたり皿洗いをしたりしていることが多い顕生さん。ムッシュ黒岩から、コンフィをつくるコツを教わったこともあるとか。コックコート姿も食材を扱う手つきも、すっかりさまになっています。
「やってて楽しいのは、やっぱり洗い場!溜まってた洗いものが、どんどんきれいになっていくのが気持ちいいんです」。
そしてもうひとつの楽しみは、昼のまかない。当番制で、その日のまかない係がメニューを決めて調理をします。
「僕がつくって好評だったのは、カレーとポトフとパスタかな。パスタはスパゲディだけじゃなくてペンネを使ったりもします。つくったまかないは自分で写真を撮って、研究してるんですよ。今は母とふたり暮らしなので、まかないで好評だったレシピを、家でつくってあげることもあります」。
働き始めて5年が経った今では、後輩が増え、教える立場にもなりました。そして顕生さんがこれからの自分自身の課題としているのが、敬語など丁寧な言葉づかい。
「敬語はむずかしいけど、上手に使えるようにがんばりたいと思っています。でも最初の頃と比べたら、ちょっとは自信がついたかな?母にも“丁寧な言葉づかいができるようになってきたんじゃない?”って言ってもらえました」。
職場のスタッフやキャストとも仲がよい顕生さん。キャストの家族が職場見学に訪れる「親の社会見学」では、お笑い好きなキャラクターを生かし、一発ギャグで場を盛り上げることもあるそう。そしてプライベートでは、高校の時にやっていたダンスを2022年から再開。仕事もプライベートも、充実した毎日を送っている様子が伝わってきます。
「ここに入って、5年間あっという間でした。辞めたいとか、よそに移りたいとか思ったことは一度もないです。ここしかねえなと思って続けてきたから。もともと食べることも好きだし、自分には向いてたんでしょうね」。
何気ない出会いをチャンスに変えて、自分の適性を開花させた顕生さん。仕事を通じて自信を身につけ、どんどん積極的になっている姿が、印象的でした。